2013/01/16

朝日新聞の記事を一人歩きさせるな: 日豪外相会談記事

岸田文雄外相が2013年1月9日から14日にかけて、フィリピン、シンガポール、ブルネイ及びオーストラリアを訪問した。朝日新聞は、いわゆる慰安婦問題に焦点を絞った記事を配信した。日本の新しい外務大臣を迎えたオーストラリア外相の発言にしては、あまりにも厳しい印象を与える内容である。私は違和感を覚えたので、事情を調べた。朝日新聞はこの記事を英訳して配信しているが、これが一人歩きをしないよう、外務省はきちんと事情を説明する必要があると考える。


1.朝日新聞の記事

豪外相「河野談話見直し、望ましくない」 日豪共同会見 [1]

【関根慎一】豪州のカー外相は13日、岸田文雄外相との共同記者会見で、慰安婦問題で旧日本軍の強制性を認めた1993年の河野談話について「近代史で最も暗い出来事の一つであり、見直しは望ましくない」と述べた。

岸田外相は「慰安婦問題で安倍晋三首相は非常に心を痛めている。歴代首相と思いは変わらない」と説明。「戦後50年の村山談話、60年の小泉談話を引き継ぐ」とも語り、植民地支配と侵略へのおわびと反省を表明した両談話を、安倍首相が継承するとの見通しを示した。豪メディアの質問に答えた。

菅義偉官房長官は4日のインタビューで河野談話の見直しに慎重な考えを示しつつ、第1次安倍内閣が「政府が発見した資料に強制連行を直接示すような記述は見あたらなかった」とする政府答弁書を閣議決定したことにも言及。村山談話は継承したうえで、新たに安倍談話を出す考えも示しており、カー外相はこうした動きに懸念を表明したものとみられる。

共同会見に先立つ外相会談では、アジア太平洋地域の安全保障面で米国との連携強化で一致。ただ、カー外相は会見で「中国を封じ込める考えはない。日豪にとって重要なパートナーだ」と指摘した。


2.背景について

日豪外相会談は、1月13日(午後1:15~3:45) に開催されており、その概要は外務省HPに発表されている。[2]

共同記者会見は外相会談の後に開催されたが、その議事録(英文)は、オーストラリア外務省のHPに公開されている[3]。なお、議事録は、途中聞き取れないので空欄になっている箇所があるし、岸田外相の発言は通訳による発言である。

まず、カー(Carr)外相と岸田外相が発言し、二人の発言の後で記者から質問が入った。上記の朝日新聞によると「豪メディアの質問に答えた。」と書いてあるので、朝日新聞の記者が直接的に質問したわけではなさそうである。

朝日新聞には、「1993年の河野談話について『近代史で最も暗い出来事の一つであり、見直しは望ましくない』と述べた。」と書かれている。その部分と想定される箇所は以下のところだが、途中聞き取れないので [audio skips]あるいは[indistinct]となっており、議事録を読む限りにおいては、「見直しは望ましくない」と言ったとは断言できない。

[Audio skips] Australia as we look forward to our [audio skips] of any differences between them, and the issue of the Kono Statement of 1993. We’ve acknowledged that that statement was an acknowledgement of an episode that is one of the darkest in modern history and we [indistinct] that the acknowledgement be revisited.

カー外相が河野談話の内容の詳細を承知しているとは思えないし、たとえ承知していたとしても、日韓の問題に首を突っ込むとは思えない。実際のところはどうだったのだろうか?外務省から随行者がいたはずだし、他の記者はどのように聞いたのだろうか?いずれにしても、いわゆる慰安婦問題についての朝日新聞記事は要注意である。 

なお、カー外相は、岸田外相との会談を踏まえ、彼のブログで次の3点を書いている。[4] (こちらの方が重要なニュースだと思うが、外務省のHPにも書かれていない。)

(1)安全保障については、北朝鮮のロケット発射問題にだけでなく、世界のさまざまな問題について議論した。オーストラリアは、日本が安保理の常任理事国入り支持している。(Australia reaffirmed its support for Japan’s permanent membership of the UNSC.)
(2)途上国の開発援助については、AusAIDとJICAが太平洋地域で協力することを確認した。
(3)日本の科学調査捕鯨については、オーストラリアは反対しており、本年後半国際司法裁判所で聴聞会が始まる。



参考文献
[1] 邦文記事 豪外相「河野談話見直し、望ましくない」 日豪共同会見
英文記事 Australian foreign minister warns against revising Kono statement
[2]日豪外相会談(結果概要)(2013/1/13)
[3] Press Conference - Australia-Japan Ministerial talks (2012/1/13)
[4]ブログ名:Thoughtlines with Bob Carr
Australia-Japan talks: development, regional security, whaling (2013/1/14)

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